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曇り時々雨
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その日は、見えないくらいの薄い9月の雨が降っていた。

職場のみんなは、すでに帰ってしまった後で、残っていたのは、私と就一さんだけ。
思えばきっと、とてもわかりやすい顔をしていたに違いない、私を見て、ちょっと黙って、それから就一さんは、ぽそっと呟いた。
「お茶でも、飲みにいこっか」
私は、舞い上がる気持ちを抑えて、小さく頷いた。

細く長い坂道を下って、私たちはそれぞれの車で、近くの喫茶店へ。
前に来た時はみんな一緒だったのに、今日は二人。
もうこの時、今しかないと思った。
砂糖も入れていないのに、アップル・ティーをかき混ぜながら、
「あのね。。。就一さん、私がどう思ってるかしってたかな。ずっと好きだったの」
答えは、用意されていた。
「なんとなく、わかってたよ。でも。。。」

私より8つ年上、29才の就一さんには、小さな女の子が2人いた。
ひとつ年下の奥さんは、見たことはないが綺麗な人らしい。
勤めて2年目のゴルフ場に転勤してきた彼を見た瞬間、
私はこの日に導かれることになったのに違いない。

「でも、どうしようもないよ。僕は、この暮らしが大切で、それと同じくらい。。。」
「ごめん。どうしても黙ってられなくて。」

彼のコーヒーも、飲まれることのないまま冷めていくようだった。

「そうだよね。。。悲しい」
涙をこらえた。
「僕も悲しいよ。どっちに転んでも、きっと柚実子ちゃんを、傷つけることになるんだろうし」
「傷なんかつかない、ついたっていい」
聞こえるのが精いっぱいの小さい声、震えていた。
「そんなこと、出来ないよ」

小粒の涙が二つ、ポロリと落ちた。

「ごめんね、いいんだ、聞いてくれただけで、嬉しかった」
「泣かないで、僕まで泣きたくなっちゃうから」

暫く黙ってた。そうとしか出来なかった。
涙がそれ以上零れない様に、手の甲できゅっと押さえて。

ひとしきり考え込んでいた彼は顔をあげた。
「どうしようもないなりに、このまま。。。
 そうだ、夕ご飯、まだだったよね、何か食べよう」
え?こんなときに?こんなときだから??
どうしようもないから、どうしようもないなりに。。。ふふ
妙に明るい言葉に、涙は止まった。
頬笑みさえ出てきた。
「そうだね、何か食べよう」

私たちは、それから、何もなかったように他愛のない話をしながら、
その店自慢のトマトソースのパスタを味わった後、さりげなく店を出た。
「今日は特別に僕の奢りだよ」
9時半だった。

「明日また、会社でね」
「うん、また明日ね」
何もなかったように。

でも、明日からは今日までとは違う。
 
ひとり考え込んでいた夏よりも、うんと
冴え冴えとした星空が近づいてきている、
そんな晴れがましい夜だった。


続く
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