曇り時々雨
カレンダー
03 | 2024/04 | 05 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | |
7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 |
28 | 29 | 30 |
カウンター
その日は、見えないくらいの薄い9月の雨が降っていた。
職場のみんなは、すでに帰ってしまった後で、残っていたのは、私と就一さんだけ。
思えばきっと、とてもわかりやすい顔をしていたに違いない、私を見て、ちょっと黙って、それから就一さんは、ぽそっと呟いた。
「お茶でも、飲みにいこっか」
私は、舞い上がる気持ちを抑えて、小さく頷いた。
細く長い坂道を下って、私たちはそれぞれの車で、近くの喫茶店へ。
前に来た時はみんな一緒だったのに、今日は二人。
もうこの時、今しかないと思った。
砂糖も入れていないのに、アップル・ティーをかき混ぜながら、
「あのね。。。就一さん、私がどう思ってるかしってたかな。ずっと好きだったの」
答えは、用意されていた。
「なんとなく、わかってたよ。でも。。。」
私より8つ年上、29才の就一さんには、小さな女の子が2人いた。
ひとつ年下の奥さんは、見たことはないが綺麗な人らしい。
勤めて2年目のゴルフ場に転勤してきた彼を見た瞬間、
私はこの日に導かれることになったのに違いない。
「でも、どうしようもないよ。僕は、この暮らしが大切で、それと同じくらい。。。」
「ごめん。どうしても黙ってられなくて。」
彼のコーヒーも、飲まれることのないまま冷めていくようだった。
「そうだよね。。。悲しい」
涙をこらえた。
「僕も悲しいよ。どっちに転んでも、きっと柚実子ちゃんを、傷つけることになるんだろうし」
「傷なんかつかない、ついたっていい」
聞こえるのが精いっぱいの小さい声、震えていた。
「そんなこと、出来ないよ」
小粒の涙が二つ、ポロリと落ちた。
「ごめんね、いいんだ、聞いてくれただけで、嬉しかった」
「泣かないで、僕まで泣きたくなっちゃうから」
暫く黙ってた。そうとしか出来なかった。
涙がそれ以上零れない様に、手の甲できゅっと押さえて。
ひとしきり考え込んでいた彼は顔をあげた。
「どうしようもないなりに、このまま。。。
そうだ、夕ご飯、まだだったよね、何か食べよう」
え?こんなときに?こんなときだから??
どうしようもないから、どうしようもないなりに。。。ふふ
妙に明るい言葉に、涙は止まった。
頬笑みさえ出てきた。
「そうだね、何か食べよう」
私たちは、それから、何もなかったように他愛のない話をしながら、
その店自慢のトマトソースのパスタを味わった後、さりげなく店を出た。
「今日は特別に僕の奢りだよ」
9時半だった。
「明日また、会社でね」
「うん、また明日ね」
何もなかったように。
でも、明日からは今日までとは違う。
ひとり考え込んでいた夏よりも、うんと
冴え冴えとした星空が近づいてきている、
そんな晴れがましい夜だった。
続く
PR
| HOME |